千葉大学画像工学への思い

更新日:2015年06月12日

私は千葉大学画像応用工学科を1983年3月に卒業した、表 利彦(おもて としひこ)と申します。

2014年春までは日東電工Grの技術統括CTOをさせて頂き、現在は経営インフラ統括部にて、TI(CIO)を中心に、調達、人事を管掌をしています。

長らく千葉大学にはご無沙汰をしている中で、この度、この様な機会を頂いた事を大変嬉しく思っています。

大学生教養学部の時には、正直学業と言うよりも、バレーボールの練習のために大学に通っていた様な感じでしたが、今後社会で役に立つ人材を目指すには海外経験をしておくべきとの気持ちから、大学3年次終了とともに米国に一年間参りました。

この期間の経験は、社会人として海外とのビジネス展開や、社内のグローバルメンバーとのコミュニケーション力を高めるうえで非常に有意義であったと感じています。

留学中の一年間は、千葉大学は休学の扱いで参ったわけですが、渡米前に帰国後にお世話になる研究室として、当時の画像応用工学科の角田研究室を確定させて頂いたうえで渡米することが出来ました。帰国後は、角田教授から山岡教授が研究室を引き継がれており、その画像形成学を学ぶ山岡研究室に入れて頂きました。

卒業研究は、不飽和ポリエステルを用いた新規感光性樹脂に関するものであり、日油様(当時は日本油脂)からの山岡研への依頼研究テーマでした。具体的には、主鎖にエチレングリコールユニットを持つ、ノニオン系の不飽和ポリエステルモノマー、オリゴマーを用いた感光性樹脂の合成と、水系現像液による光画像形成特性評価、ならびに樹脂の諸物性評価に関するテーマでした。

出来の悪い私を、丁寧に御指導頂いたのが山岡教授であり、また、当時日本油脂のテーマ依頼元であった千葉大学の先輩である後藤様や、小関先生からも日々実務面での丁寧な御指導を頂けました。お蔭で、研究の面白さを感じたと共に、光を使った画像形性技術に関して、強い興味を持つことができました。このことは、間違いなく現在までの職歴に繋がる最初の一歩であったと思います。

卒業後は、縁あって関西に本社のある日東電工株式会社(当時は日東電気工業株式会社)に入社させて頂くこととなり、現在に至っています。

入社当時は、電子業界におけるプリント基板製造のための材料として、銅張積層基板上に、銅のエッチング液に耐性を有するドライフィルムレジストを貼り合わせた後に、フォトマスクを介して紫外線を照射し、その後液状現像液にて不要部分を除去することで画像形成を行う材料が世の中で使用されていました。ただ、ドライフィルムレジストの現像液や、画像形成後のレジスト剥離液は、現在では使用禁止になっている有機溶剤類が使われており、当時においても環境課題を抱えていることから、有機溶剤とは異なる現像液、剥離方式による画像形成技術に注目が集まっていました。日東電工は粘着テープを中心に、シートやフィルムに関連する製品群を多く生産しており、粘着剤合成、配合技術がコア技術の一つである事から、有機溶剤を使わず、粘着テープを剥離するような現像プロセスにて現像処理を行え、かつ剥離段階ではアルカリ水溶液が使用可能な新規材料開発を行っていました。ところが、入社当時の私は基礎知識も少なく技術課題解決力に乏しい状態であったため、「このままでは会社に貢献できる新規事業を起こせない!」との強い危機感を抱きました。

ある日、千葉大学のバレーボール部のOB会に出席した時に、当時のバレー部顧問であった理学部の古谷先生から千葉大学にも博士課程が出来るとの話を伺い、何とか再度勉強し直したいとの思いから、またもや山岡教授に無理をお願いし、大学院、自然科学研究科、物性物理学講座、造形成科学専攻の博士課程で、再度御世話になることになりました。

この時、会社からは国内留学制度を活用させてもらい、当時の上司は快く(少なくとも私はそう思っていましたが・・・)コースドクターへ入る事を承諾してもらいました。

博士課程での研究テーマは、「含フッ素ポリマーを用いた新規耐熱感光性樹脂」に関するもので、当時はまだ完全では無かった、耐熱性樹脂と感光性樹脂の両機能を有する材料を設計し新規構造提案する内容でしたが、本当に朝から晩まで3年間研究に没頭する事が出来ました。この間には、国内外の学会、会議にも出席させて頂き、識者の方々から多くの気づきと叱咤激励を頂きました。自らの研究分野に限らず、画像工学に関わる多くの技術に触れる機会も頂き、あらためて千葉大学の学部時代に授業で習った、写真、印刷工学における内容が、応用物理を基本とした電子写真工学や、インクをベースにしたレオロジーと物性工学(これは粘着剤開発においても必須学問分野の一つ)、更に光化学、光物理化学をベースにした機能性材料工学などが、印刷産業、半導体産業、電子産業などへの多くの応用技術展開が可能な裾野の広い学問である事を実感することが出来ました。

またアナログからデジタルへの技術変化の波は、画像工学分野にも大きな影響を与えたわけですが、その様な大きな変革の中でも、画像工学の基礎知識と技術を身に着けた多くの先輩、同輩、そして後輩諸氏が、各界で活躍されている姿を見ても、画像工学の果てる事の無い応用展開力が理解できると思っております。

JSRの小柴様は半導体フォトレジストを大きな事業に育てられたと思いますし、私も、画像工学をベースに新規耐熱樹脂を開発し、今ではお陰様で世界のハードディスクドライブの3台中2台以上に、その樹脂を用いて開発された回路付サスペンションフレキシャーが搭載されるに至っております。

さらに、私が千葉大学で学んだ本研究分野においては、昨今の有機発光体や有機導電体に代表される有機エレクトロニクス材料や、精密印刷技術を駆使して先端デバイスを作成するためのエレクトロプリンティングプロセス技術、そして光エネルギーを変換することで各種応用展開可能な波長変換材料技術などの開発においても、有効な考え方の基礎になっている事は間違いありません。

今年2015年は千葉大学の画像100周年の記念すべき節目であると聞き、大変うれしく思います。千葉大学から日本のみならず世界でも特徴のある学際学問体系をさらに進化させながら、今まで以上に幅広い産業界で活躍される研究者や技術者が多く輩出されていくことを強く祈念するとともに、私も微力ながら大学のますますの御発展をご支援させて頂ければと思っています。

日東電工株式会社
専務執行役員
経営インフラ統括本部長
IT統括本部長 CIO
表 利彦